フクロウが飛んでいる様子を見たことがありますか?身近な場所だと、フクロウカフェで店内を飛んでいる様子を見ることが出来ます。
フクロウは体が大きさに比例して羽の大きさが大きくなり、羽をバサバサと動かすと大きな羽音と風が生まれます。腕に乗っているフクロウが大きく羽を動かしてびっくりした……という体験もフクロウと触れ合いあるあるですね。
しかし、この映像を見てください。カラフトフクロウが狩りをしている様子です。
獲物がいる場所へ向かって滑空している時に全く音がしません。時折羽を動かしますが、獲物が気づいて逃げる様子はありません。
フクロウが無音で羽ばたくことができるのは何故か?その技術を何かに応用出来ないか?そんな疑問を調査した論文が先日発表されました。
2019年に発表された「Aeroacoustics of Silent Owl Flight(Justin W. Jaworski and N. Peake, 2019)」という論文です。今回はこの論文を引用しつつフクロウの羽ばたきの秘密について書いていこうと思います。
This review summarizes research to date into how owls achieve silent flight and how they have inspired nascent noise-reduction technologies in engineering design.
p396
この論文の目的は2つ。1つは、フクロウはどのようにして静かに飛んでいるのか。もう1つは、フクロウの無音飛行がどのようにして工学における騒音低減技術に影響を与えているのか。ということです。
フクロウはどのようにして静かに飛んでいる?
a comb of fibers along the leading edge, a compliant trailing-edge fringe, and a velvety down-like material on the upper surface of the wings. Graham interpreted the absence of these wing specializations on fish owls as evolutionary support that these specializations are responsible for silent flight;
p400
フクロウの羽ばたきが無音なのは、フクロウの羽の構造に秘密があります。
羽の前側に櫛状のふさふさ(セレーション)が付いており、上空から獲物の方へ突進する時に翼端で起きる騒音を抑制する効果があります。
羽の後方は風切羽(初列風切・次列風切)で形成されています。この風切羽にもセレーションがついています。また、羽の表面は綿毛のようになっており滑らかな手触りになっています。これらの部分にも羽ばたきで起きる騒音を抑制する効果があります。
一方、魚を獲って食べるようなフクロウには上記のような羽の構造にはなっていないとされている。魚を獲る時に羽音を極端に抑える必要はないからです。よって、静かに飛ぶために羽の構造が特殊になっているのだろう、と書かれています。(現時点で、この推測は科学的に裏付けされていません。)
Their comparison of the owl sound pressure spectrum against the threshold of human hearing indicated that a gliding owl would be effectively silent to a human observer beyond a distance of three meters (see Figure 2a).
p399
滑空するフクロウの羽音は3m以上離れた場所にいる人間には聞こえないという研究結果が出ています。
However, Konishi (1973) notes that barn owls, for example, are more sensitive to sounds in the 500 Hz to 10 kHz range than humans;
p399
This sensitive frequency range of the owl overlaps with the broadband rustling noises made by prey such as voles,
p399
また、フクロウ(論文内ではメンフクロウ)は人間よりも音に敏感であり、ハタネズミのようなフクロウの餌となる動物が動く音もよく聞こえると書かれています。
先に紹介した動画でも分かるように、フクロウは遠くからでも獲物のいる場所を音で感じ取ることができ、音を頼りに静かに飛んでいき狙いが定まると一気に突進します。
フクロウの無音飛行と工学における騒音低減技術
羽の後方についているセレーションと、翼表面の綿毛がフクロウの飛行における騒音を抑制する効果があるとわかっています。
実際にフクロウの羽の構造を再現した模型を作成し空気の流れを調べると、羽の後方のセレーションが空気の渦を打ち消していた。これが騒音抑制に繋がっています。
これらのパーツに着想を得て、風車や航空機などの騒音低減装置を開発出来るのでは無いかと考えられています。今日では、新幹線のパンタグラフにセレーションの構造が使われています。
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